「良い文章」の反対に、「悪い文章」というものはあるのだろうか。
もちろんある。
それは、「文法的に正しくない文章」だ。
「いやいや、文法なんて間違えないよ。小学生じゃないんだから」
と、あなたは思うかもしれない。
しかし実際は、文法的におかしい文章は世の中にあふれている。
たとえば次の文を見てほしい。
2024年9月のスポーツサイトの記事だ。
「Jリーグでは近年、全体でクラブが誹謗中傷投稿に対する声明が増加。町田は前日9月28日のサンフレッチェ広島戦において、黒田剛監督が相手にロングスロー用のタオルを濡らされたとして苦言を呈していた。」
文を通して言いたいことは、一読すればまあ分かる。
でも、読んでいてなんとなく変な感じがしないだろうか。
何がどう変なのかは、次の通り。
●目立つのは2文目。すんなり読むと、「町田」が文頭にあって「苦言を呈していた」が文末なので、「町田が苦言を呈した」が主+述と感じる。
でも、そうすると「黒田監督がタオルを濡らされた」ことに対して「町田が苦言を呈した」という構図になる。「タオルを濡らされた黒田監督」がチームに苦言を呈してもらうのは、ちょっとおかしい。
●そうなると、「苦言を呈していた」のは「黒田監督」になる。でも、そうすると「町田は」を受ける述語が存在しなくなる。
●2つの文のつながりもおかしい。「誹謗中傷投稿に対する声明が増加」→(その例として)→「タオルを濡らされて苦言を呈した」という構図がおかしい。「誹謗中傷投稿」は言いっぱなし?
●1文目。「全体で」の意味がよく分からない。何の全体なのか。Jリーグ全体?
●1文目。「クラブが」を受ける言葉がない。「発表した」などの述語が必要なはず。
●1文目。「声明が増加」も、何かおかしい。「声明」はあくまでも「誹謗中傷投稿」へのリアクションであって、増加しているのは「誹謗中傷投稿」でなければおかしい。
変な部分を指摘すると、ざっと以上の感じになる。
問題点をざくっと最適するなら、このわずか100文字足らずの文章の中に
「主語」に相当するワードがたくさん存在することが挙げられる。
(「Jリーグでは」「クラブが」「町田は」「黒田剛監督が」の4つ)
この時点で混乱が生じやすい構造になっている。
文章術を学ぶ人必読の書とされる、
本多勝一著「日本語の作文技術」には、極端な例としてこんな1文が載っている。
「私は小林が中村が鈴木が死んだ現場にいたと証言したのかと思った」
うーむ!例文とは言え分かりにくい!
これを少しだけ分かりやすくした例として書かれているのが次の文だ。
「鈴木が死んだ現場に中村がいたと小林が証言したのかと私は思った」
ちょっとは分かりやすくなっている。
なぜかといえば、文の「構造」が少し見えてきたからだ。
・「死んだ」は鈴木
・「現場にいた」は中村
・「証言」は小林
・「思った」のは私
と、「誰」がどの言葉を修飾しているかが何とか分かるようになっている。
なぜかといえば、「修飾語」と「被修飾語」の関係が明確になったからだ。
(修飾されない被修飾語は不要なので削除)
それをやれば、先ほどのJリーグの文章も少し整理されるだろう。
修正するとこうなる。
1:まず、不要な言葉を消す
「Jリーグでは近年、全体でクラブが誹謗中傷投稿に対する声明が増加。町田は前日9月28日のサンフレッチェ広島戦において、黒田剛監督が相手にロングスロー用のタオルを濡らされたとして苦言を呈していた。」
2:「修飾語」と「被修飾語」の関わりを持たせる。
+稚拙な表現、不適切な表現を改める
「Jリーグでは近年、各クラブに対する誹謗中傷投稿が増加している。J1町田の黒田剛監督は9月28日のサンフレッチェ広島戦で、ロングスロー用のタオルを濡らす相手の行為に苦言を呈していた。」
ということになる。
「文の違和感に気づく」「修正して違和感をなくす」という作業を、
文章の書き手は自分でやらなければいけない。
自分が書いた文章がおかしいことに気づき、納戸も粘り強く修正の手を入れ続ける。
その地道な作業を怠らないようにしたい。

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